インターハイで王者の座を総北高校に奪われてしまった箱根学園。熱い熱いシーズンを終えたその年の冬、部恒例の〔3年生追い出し親睦壮行会(ファンライド)〕が行なわれた。旅立っていく3年生の福富・荒北・東堂と、キャプテン候補・泉田ら部を引き継ぐ下級生たち……。しかしそこは天下のハコガク。ファンライドとは名ばかり。待っていたのは各々が自身のプライドと互いへのリスペクトをかけた、チーム全員でぶつかりあう“最後のレース”だった。

 
 前半の見どころは、3年生が自分たちの思いを最高の走りとして後輩に託し、その走りに後輩たちが全力で立ち向かうポジションごとの“直接対決”。中でも囲み会見で「今回、みんなの成長を上から見ている自分に驚いた」と語った宮崎秋人演じる新開隼人と、「今まで3年生がやってきた仕事を任されその大変さを実感した」と語った河原田巧也演じる泉田塔一郎のぶつかり合いは、ふたりがこれまでの舞台『弱虫ペダル』の板の上で実際に積み重ねてきた時間の重さも感じさせてくれる白熱のレースに。「どちらにも勝って欲しい」と拳を握って応援したくなる気迫に満ちていた。



 今回から参加となった真波山岳役の谷水力、福富寿一役の村上渉、荒北靖友役の木戸邑弥、東堂尽八役の佐藤祐吾は、舞台シリーズとしての継続性を誠実に背負いつつ、ニューカマーとしてのフレッシュな存在感と程よい緊張感でペダルを漕ぐ。後半、新しく入部してきた“問題児”、飯山裕太演じる新開の弟・悠人に、やはり走りを通してハコガクイズムを注入する東啓介演じる葦木場拓斗は、前作『総北新世代、始動』から参加したキャラクターだが、東はすでに箱学の中心を担うにふさわしい存在感と強さを発揮。初出キャラの悠人を丁寧に導く。対する飯山も、物語にひとつのノイズを与えるという役目をしっかり果たし、新入生の洗礼を体現してくれた。


 
 東と同じく前作からの参加となった銅橋正清役の兼崎健太郎は、前回あえて封印していたクレイジーな面を全面開放。“なにかと暴れ回っては入部・退部を繰り返すが生粋の自転車好き”という紙一重な存在感で、悠人とはまたひと味違う箱根学園の要注意キャラを客席に強烈に焼きつけた。

 

 葦木場拓斗がメインとなるスピンオフ回ということで、総北からの参戦は、手嶋純太役の鯨井康介と青八木一役の八島諒のふたり。本編でも鉄壁のニコイチ感で邁進する芸達者だけに、本役はもちろん、本役の意外にお茶目な一面やクセの強いモブキャラのあれこれを生き生きと担当。これぞ、舞台『弱虫ペダル』ファミリーの懐の深さといったところか。



 学生時代、誰もが経験するであろう大切な仲間との出会いと別れ──青春の1ページにクッキリと刻み込まれる思い出が生まれ出る瞬間を描いた本作。おそらく作品に思い入れが深ければ深いほど、虚実ない交ぜに“時の流れ”を感じてしまうであろうこの独特の味わいもまた、シリーズモノならではの特別な感覚。ともあれ新生・箱根学園は出揃い、スタートのペダルを回し始め、観客の胸に新たなワクワク感を与えてくれている。その道の先にあるモノ、やはり見届けないわけにはいかないだろう。



[文・横澤 由香]

© 渡辺航(週刊少年チャンピオン)2008/「弱虫ペダル」GR製作委員会2014
© 渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、トムス・エンタテインメント